ゴミ屋敷という言葉から連想される不快な光景の中でも、ウジ虫の発生は最も深刻な衛生問題のシグナルです。この白い小さな生命体は、一体どこからやってきて、なぜ大量発生してしまうのでしょうか。そのメカニズムは、ハエの生態にあります。わずかな窓の隙間や換気扇から侵入した一匹のハエが、放置された生ゴミや食品の食べ残し、ペットの糞尿といった有機物に卵を産み付けることから全ては始まります。ハエは一度に50から150個もの卵を産み、気温にもよりますが、卵はわずか半日ほどで孵化してウジ虫となります。そして、腐敗した有機物を栄養源として驚異的なスピードで成長し、約1から2週間で成虫のハエになります。つまり、一匹のハエの侵入が、数週間後には数百、数千匹のハエが飛び交う惨状へと繋がるのです。ウジ虫の存在は、単に見た目が不快なだけではありません。放置することは、深刻な健康被害を招く極めて危険な行為です。ウジ虫自身やその親であるハエは、サルモネラ菌や大腸菌、赤痢菌といった危険な病原菌を体中に付着させています。それらが歩き回ることで、室内のあらゆる場所に病原菌が拡散され、食中毒や感染症のリスクが著しく高まります。また、ウジ虫やその死骸、フンは強力なアレルゲンとなり、アレルギー性鼻炎や皮膚炎、喘息といった症状を引き起こす原因にもなります。そして何より、足元で蠢く無数のウジ虫を目の当たりにすることは、住人の精神に計り知れないダメージを与え、自己肯定感を奪い、生きる気力さえも削いでいくのです。ウジ虫の発生は、その家が生命を脅かす危険な空間に変貌したという、最終警告に他なりません。