床に蠢く白い悪夢!ウジ虫が私に教えてくれたこと
あの日、私は確かに地獄を見たのだと思う。仕事を失い、恋人に振られ、生きる意味を見失った私は、自分の部屋という小さな世界に引きこもった。カーテンを閉め切り、コンビニ弁当の容器やペットボトルが積み重なっていくのを、ただ無気力に眺めていた。部屋の異臭には気づいていた。でも、もはやどうでもよかった。私の心と同じで、部屋も腐っていくのだと、ぼんやりと思っていた。その日は、やけにハエが多いなと感じていた。そして、空になったカップ麺の容器を蹴飛ばしてしまった時、それらは現れた。白い、米粒のような何かが、床の上で蠢いていた。ウジ虫だった。一瞬、何が起こったのか理解できなかった。次の瞬間、全身の血の気が引いていくのを感じ、胃の奥から酸っぱいものがこみ上げてきた。私は、こんな場所で生きていたのか。ウジ虫と一緒に、同じ空気を吸い、同じ床の上で眠っていたのか。絶望と自己嫌悪で、その場に崩れ落ちて泣いた。涙で視界が滲む中、蠢く白い塊は、まるで私の腐りきった心を具現化したようだった。しかし、不思議なことに、絶望のどん底で、私の心に小さな火が灯ったのも事実だった。死にたいとさえ思っていたのに、ウジ虫の存在は、私に強烈な「生」への嫌悪と、それ故の渇望を突きつけた。「こんな場所で死んでたまるか」。それは、ほとんど叫びに近い心の声だった。その日から、私の戦いが始まった。震える手で殺虫剤を握りしめ、ゴミ袋を何枚も重ねて、地獄の清掃を始めた。それは、部屋を片付けるというより、自分の人生から膿を出すような作業だった。ウジ虫は、私に生きることの最低限の尊厳を、そのおぞましい姿で教えてくれた、私の人生の教師だったのかもしれない。